9月22日付朝日新聞で「誰でも通園」創設へ検討会 保護者の就労要件問わずという記事が目に留まった。
保護者の就労要件を問わずに保育園などを利用できる「こども誰でも通園制度(仮称)」の創設に向け、こども家庭庁は21日、有識者の検討会をスタートさせたとあった。
もう50年以上も前になるが、私は地方都市の地方公務員になった。
最初の仕事は、福祉事務所で生活保護のケースワーカーだった。
ケースワーカーは生活保護現業員とも言う。
生活保護の申請者(要保護者という)の調査と決定、生活保護受給者(被保護者という)の生活指導、就労指導などの自立助長支援のための家庭訪問が主たる仕事だった。
そのほかに福祉対象者の法律である福祉六法(現在は福祉八法)に関する現業業務、いわゆる施設への入園、変更、退園などの調査と判定事務を担っていた。
その関係で児童福祉法に基づく保育園の入園ついての調査決定も担当した。
ちょうど、団塊の世代たちの第二次ベビーブームで、保育園への入園は困難を極めた。家庭訪問して、子供の保育の現況調査をすると、新規入園申請の場合はたいていの母親が子供を家庭保育していて、入園が決まれば職を探すという当然のパターンが多かった。が、保育園の基本的な入園条件は「保育に欠ける」状態にあることを要件としていた。従って、仕事に就いていない状況は一義的には保育に欠ける状態ではないと認定されて、申込者が定員を超過している状態では入園が困難だった。
また、申込者全員への家庭訪問でも実態を把握することが難しく、時間もかかることから数年後に集団面接方式を採用し、調査項目ごとの採点方式で決定する方法を採用した。
保育園に入れなかった母親は子供を抱えて、私の机のそばに張り付いて席を立とうとしなかった。
このままでは仕事ができないので子供を置いて帰ると言って泣いた。
定員が決まっている以上、どうすることもできなかったが、一定以上の保育料の支払い能力があり、どうしても働く必要がある人には、私立の認可保育園の園長に電話して、園との自由契約による入園を紹介したこともあった。
そうした方法は暗黙の了解として認められていた時代だったが、最近は定員の数%は公的に認められていると聞いたことがある。
2006年と2012年に生まれた私の孫たちも保育園入園の悲哀をなめた。
両親は二人とも共働き、ただ母親は第二子出産に際して育児休暇制度を利用したため、公立保育園に通っていた孫娘は退園を余儀なくされた。
二人目は男児を出生し、育休を終えて仕事に復帰した。
孫娘はちょうど小学校入学時だった。
保育園の園長から正式な卒園式には出られないが、5年間通園した保育園の卒園式の予行演習に招待されて、仮の卒園証書を頂いた。
親や子の視点に立った素晴らしい配慮だった。
男孫は両親が正職員の共働きということで採点上は保育に欠ける状態として満点だったが、最終選考の結果は、昨年からの継続児童でないことがマイナスされて、入園保留とされた。
そして3か月間は無認可保育園に通って、欠員ができて入園できたのだった。
調べてみると2018年4月より「保育所保育指針」が改訂され、「保育に欠ける子供の保育を行い」という表現から「保育を必要とする子供の保育を行い」という表現に変更されたとあった。
「保育に欠ける子供」から「保育を必要とする子供」への認識と規定の変更に私の新入職員から爺さんになる50年以上という莫大な時間がかかったのだ。
今回、私の目に留まった「誰でも通園」という記事は、私の現役時代の苦い経験や孫の時の実体験もあり、ようやく保育園の入園について、こうした常識的な判断が可能になる時代が来たのだと思いが深かった。
でも、それが可能になったのは、急速にやってきた少子化の時代になってやっと「保育に欠ける」などの要件を付すべきではないという政策の転換に結びついたのであり、遅きに失したと言っても過言ではないと私は思う。
異次元の少子化対策という以上、もはや、あれこれの制約を付すべきではない、その第一歩なのだ。
そうした観点から考えると、いつも指摘されるように文科省担当の幼稚園と厚労省担当の保育園などと区別する組織論などはやめにしなければならない。
異次元の少子化対策というならば、こども家庭庁を子ども家庭省に格上げして、すべての乳幼児童を無償で幼稚園、保育園に入園させて、同一の保育、教育が保障される環境を作ることが求められる。
そうして出産、育児、教育などを保障することで人口増加や就労増加、人手不足解消にも資することになるのではないかと思いを強くする。
いずれにしても、従来の既成概念や固定観念にとらわれず、発想を転換しなければならないし、国の様々な提案の中にその萌芽が認められる。
その萌芽を異次元の発想につなげて実行することだと私は思う。
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