世紀の大横綱白鵬の断髪式から見えた白鵬の相撲道

横綱白鳳関の文字が見える幟


1月28日元横綱白鵬の断髪式の模様をユーチューブで見た。

時折目頭を押さえる表情が印象に残った。

現役時代、横綱朝青龍の背中を追って横綱に昇進した白鵬は悪役を演じる朝青龍と違って、色白の優し気な表情が安心感を与えてくれた。

ただ、実際の土俵は、朝青龍が去るとともに、年々、厳しく、辛く、時にはそれが横綱のとる相撲かと変わって行った。

 

具体的な取り口は、腕を曲げて相手の顔にぶち込むかち上げや張り手から、猫だましという立ち合いの時、相手の目の前で両手をたたき驚かすというかく乱戦法や、横綱の立ち合いの変化など、横綱としての品格を疑わせるような相撲を時に見せた。

 

2014年の5月場所では勝ち残りで土俵下に座っていた白鵬が、結びの一番、鶴竜対豪栄道戦の行司の判定に物言いをつけた。

控え力士が物言いをつけることは禁止されてはいないようだが異例のことだった。

 

2017年11月場所11日目嘉風に敗れたが、白鵬は立ち合いが合わなかったと土俵下から納得いかないとアピールをしたが、翌日、審判部から取り組みを行った力士には物言いをつける権利がないと規則の説明を受け厳重注意された。

 

また、この場所で優勝した白鵬は、観客とともに万歳三唱を行ったが、有識者から批判的な声が多く出た。

長い大相撲の歴史の中にあって異端な横綱、横綱らしくない行いとして多くの大相撲ファンも眉を曇らせた。

土俵入りは不知火型だった



ただ、異国から来た白鵬からすれば、彼なりの言い分はあったと思う。

例えば、勝利することが当然という常に強い横綱であることを要求されている以上、人一倍勝ちにこだわることは必然ではないかといいたくなるだろう。

そこに品格品位をもってくるのか、と言いたくもなると同情を禁じ得ない。

そして自分以外に誰もいない、一人横綱も続いたし、後から横綱になった日馬富士や鶴竜、久々の日本人横綱と待望された稀勢の里達は不祥事や怪我で先に引退して行った。

こうした中で、休場しながらも休場明けには、横綱として優勝して見せた。

また、そのことが悪くも言われた。

 

休んでも下に落ちないという横綱の特権を利用していると悪く言われたけれど、土俵に戻ると、きちんと横綱の力を見せつけていたのだと思う。

それこそが横綱ではないかと。

そして、またぞろ横綱としての品位・品格に欠けると指摘されるのだった。

 

しかし第69代横綱白鵬の主な成績を見ただけでその偉大さがわかる。

白鵬が活躍した国技館



例えば横綱在位は平成19年7月名古屋場所~令和3年9月秋場所まで、実に84場所・14年間横綱として君臨した。

幕内優勝45回のうち全勝優勝は16回を数えた。

幕内通算成績は1093勝199敗253休勝率.846、

2位は大鵬746勝144敗136勝.838で、年6場所制となった昭和33年名古屋場所以降、8割を超える勝率を残した関取はこの二人しかいない。

 

雲龍型の土俵入りを披露したこともあったそうだ

白鵬が去って、大相撲の救世主は怪我で序二段まで落ちた照ノ富士物語で復活した横綱照ノ富士が誕生したけれど、今照ノ富士は満身創痍で崖っぷちに立たされている。

しかし、休場が続く一人横綱照ノ富士の跡継ぎがいないのだ。

ここは横綱の特権を生かして、優勝できる身体になるまで休場しなければならない。

休場明けの場所では必ず優勝をする、それこそが横綱としての責任と品位品格というものだ。そのことを教えてくれたのがまさしく白鵬だったのだ。

 

白鵬は令和3年名古屋場所を15戦全勝した。

そして、9月30日に突然の引退を発表したのだった。

私は残念だが、横綱照ノ富士に跡を託した見事な引き際だと思った。

白鵬の相撲道の美学をまざまざと見せてもらった。

 

引退後、NHKの相撲解説者として、たびたび登場しているが、論理的でわかりやすい解説は彼の頭の良さを示している。

白鵬の相撲が様々な要素要因を図りながら成し遂げられてきたことを知った。

白鵬の相撲道は、横綱としての品位品格と横綱としての限りなく負けない相撲の追究のたまものなのだと思った。

大銀杏がよく似合った



そのことに意を強くしたのは断髪式を見守った奥様と1男3女の子供たちだった。

特に6歳になる三女の末娘の真結羽ちゃんが土俵下から父を見上げてマイクを握り原稿を読むことなく挨拶をした。

 

「お父様、現役生活お疲れ様でした。最後のお相撲のことははっきりと覚えています。あの時のお父様は誰よりもかっこよくて、誰よりも輝いていました。

 今、目の前に立っているお父様はまげがないから、ちょっと不思議だけれども前より優しい顔をしています。

前はまげがあって頭を触れなかったけれども、もうまげがないからお父様が頭をなでなでしてくれた分、わたしがお父様の頭をいっぱいなでなでしてあげます。

世界で一番、優しくてかっこいいお父様でいてください。

世界で一番愛してるよ。

 

 大勢の皆様、お父様の断髪式におこしいただいて、ありがとうございました」

 

まさにこの親にしてこの娘あり、堂々とはっきりした口調でよどみなく挨拶した。

私も涙が流れた。

日本の古き良き家庭の匂いが漂っていた。

まさしく白鵬の相撲道につながる素晴らしい家庭を築いていると感動したのだった。

 

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