「クラウドファンディング」と「ふるさと納税」似ているようだけど

アメリカ芙蓉だろうか



 

先日、テレビのニュースで国立科学博物館(科博)が標本や資料の収集、保存の費用を集めるため、インターネットを通じて寄付を募るクラウドファンディングを始めたと伝えていた。

エアコンが故障しても修理する費用もなく、扇風機を回し、団扇を使っている執務風景が映し出された。

館長室で幹部が鳩首そろえて協議している姿など、科博の窮状ここに至れりという姿だった。

 

しかし、1億円の目標額は始めたその日の午後5時には達成したのだった。

そして、8月10日午前11時30分時点で5億4218万5000円が集まっている。

支援者は3万3266人だ。

一人当たり16,298円となる。

いかに科博を愛し関心を持っている人たちが多いかという証明に他ならない。

 

寄付に対する返礼品には、トートバッグや図鑑などの科博のオリジナルグッズを用意している。

5万円や10万円の寄付に対しては茨城県つくば市にある収蔵庫内の「バックヤードツアー」が用意されていたが、多数の応募があり、すぐに募集終了となったという。

なるほど、自前の返礼品を用意するこれが科博ファンに対する、きわめて真っ当な対応だろう。

もちろん、クラウドファンディングにも寄付型クラウドファンディングだけではなく、融資型や株式投資型、ファンド型などの投資を目的としたクラウドファンディングがあることを知ったけれど、ファンディング(資金調達)しようとする目的に賛同する人が自らのお金を差し出して集うわけだから、自分で決めればいいことなのだ。

 

それに引き換えふるさと納税の在り様はちょっと首をかしげたくなる。

私はこのふるさと納税制度には参加したことがない。

そもそも、今住んでいる自治体に収めるべき住民税を、幼いころ育った故郷の自治体や魅力ある自治体に寄付したいと思うのであれば、税でなく、自分の別のお金で寄付すればいいではないかと思ってしまうのだ。

そうでないと他の自治体に寄付した分の税収が住んでいる自治体から減るということになれば、住んでいる自治体が困ることになるのは自明の理だ。

結局、今住んでいる自治体の行政サービスが低下してしまうのは目にみえているではないか。

全国1718市町村を競わせる必要がなぜあるのか。

それぞれの自治体の特性や拠り所は千差万別である。

魅力的な特産物や観光物産などを本来から持つ自治体と、そうでない自治体が存在しているのだ。

納税者の下心をくすぐるような政策に加担したくはなかった。

サルスベリが美しい



今、多くの弊害が出ているという。

例えば、寄付先の自治体選びも返礼品目当てが多く、とても、少年期に育ててくれた郷土への感謝の気持ちの表れとは言えない。

因みに朝日新聞によれば2022年度の寄付額トップスリーは

1位宮崎県都城市受入額198億円、主な返礼品は宮崎牛、焼酎

2位北海道紋別市194億円カニ、イクラ

3位北海道根室市176億円、ホタテ、イクラ

そして、トップ5自治体は前年度と同じ顔ぶれであり、22年度までの3年間では、トップ20自治体の半分が同じ顔触れなのだ。

 

要するにほとんどが返礼品目当てだということが分かる。

また、この制度は多額納税者の高額所得者ほど多くの返礼品がもらえる富裕層の優遇制度なのだ。

もっとも納税する税額が少なければ申しむメリットも少なく、有難みはないのは当然なことだが。

 

そして、都市部では他の自治体へのふるさと納税の増加により税収の流出にあえぐ。

東京都世田谷区は、今年度の流出額が過去最大の97億円に達する見込みだという。

現在住んでいる自治体の納税額を減らして、縁もゆかりもない返礼品の特産物を持っている自治体に恵みを与えているのだ。

その実態は、事務作業やPR活動など業務全般を民間企業に委託することなどで、実際の税額の50%程度の経費が掛かり、納税者からすれば「もっと税金を大事に使ってよ」と言いたくなるのだ。

 

全国の自治体が2022年度に受け入れたふるさと納税の件数は5184万件で、総額は9654億円に上ったが、返礼品の調達や送付などに4517億円(46.8%)が使われているのだ。

鉢植えの里芋



まったく、こんなニンジンをぶら下げるような制度を大真面目で国の政策の柱に据える我が国の政治家も役人もどうかしていると思わざるを得ない。

誤解のないように付け加えておくと、ふるさと納税を利用する人についてどうこう言いたいわけではない。

ちょっとでも得をしたいというのは、聖人君子ではないごく普通の人にとって自然なことだ。

一方クラウドファンディングのように、何か世の中の役に立ちたいというのも普通の人が持っている感情だと思う。

ただ、クラウドファンで資金を得たとしてもそれは移ろいやすい人情頼み。

永続的に必要な資金は、基本的には税金で賄うべきだ。国の貴重な文化財が電気代の高騰により資料の保存、維持管理のための燃料費の予算が底をついてクラウドファンディングに頼るなど、あってはならないことだと私は思う。東京五輪にしても大阪万博にしても無駄なことはいっぱいあるではないか。

 

もう、そろそろ特産品を返礼品として掲げるふるさと納税はやめるべきだ。

調べてみると目的にかなうやり方はあるように思えた。

例えば、シルバー人材センターなどですでに実施されている、空き家管理の代行やお墓参りや墓地管理の代行などをふるさと納税制度の指定事業としたり、市町村が財政難の中で、急ぎたい事業へのふるさと納税、激甚災害を受けた郷土などへのふるさと納税、あるいはローカル線存続のためのふるさと納税の承認など、税金の使い道を明らかにした公益性の高いふるさと納税の在り方を模索すべきではないだろうか。

ただ、一番の問題は返礼品という高いお得感を打ち出している現行のふるさと納税の制度設計が大きな障害となるだろう。

まあ、何とも変なことを始めたものだと書きながら思った次第です。

 

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