運転免許教習所に通っている時、こんな事があった。
自習室で勉強していると、一人の教官が近づいてきて私に聞いた。
彼は警察を退職後、教習所で教えているらしかった。
「あんた、〇〇地区の人かなあ。」
そうですと答えると、
「Aさんは知っとるか。」と聞く。
Aさんとは、そのころある事件で新聞紙上を賑わした人だ。
もちろん名前くらいは知っている。そう答えると、
「家は近いのかな?」と重ねて聞く。
同じ団地だが、別の町内会だと答えると、
「そうか、知り合いというわけじゃあないんじゃな、実はな。」
とようやく本題に入った。
「わしが取り調べを担当しとったんよ。
絶対にこいつがやったと思ったが、吐かんのよ。」
任意で毎日警察署まで出頭して、取り調べを受けていたそうだ。
「なんぼ追求しても、白状せんのよ。」
毎日自分で車を運転して、警察署まで来ていたという。
行き詰まってしまって、ふと、
「あんた、ちょっと免許証を見せて。」と言ったそうだ。
勝算があったわけではない。攻め手に窮してのことだったがこれが功を奏した。
途端に、被疑者の顔色がサッと変わったのがわかったという。
「すみません、私がやりました。」と、あっけないほど簡単に罪状を認めたそうだ。
彼は無免許だったのだ。
免許証の有効期限が切れていたが更新を怠り、無免許で毎日警察署に出頭していたの
だ。
急転直下事件は解決した。
新聞紙上で馴染みの事件だったし、そんな背景があったのかと興味も湧いたが、特に親しいわけでもない私に話してもいいのかな、とも思った。
新聞などで、「捜査筋からの情報によると」、などの記述を目にすることがある。
捜査筋というのはなんだろうかと思っていたが、案外こんなことかも知れない。
手柄話はしたいものだ、それは私にもわかる。
しかし、守秘義務というのは一体どうなっているのだろう
そんなに簡単に話してもいいのかな、と思ったり、もう時効だからと思ったり、い
や、時効でない話も聞こえてくるよなと思ったり。
警察関係者は意外におしゃべりなのかなと思ったり、ここだけの話。
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