火曜日 朝5時前に起床。
旅先の朝の目覚めは早い。
5時過ぎにウオーキングに出かけた。
旅館を出て道路を挟んだ向かいが鴨川シーワールドの入り口だ。
目の前の道路は海岸に沿ってまっすぐに伸びる道路で、その直線は1キロ以上あるだろうか。
直線道路を歩いていると、姉二人と遭遇した。
鏡忍寺という寺が1.7キロ先にあるという案内版
があった伝えると、姉たちもすでに見ていて興味を示し、今日の観光コースに入れてもいいと言った。
姉からは海岸に出る小道がシーワールドの入り口横にあると掃除のおじさんに教えてもらって行ってきたというので、姉たちと別れて、その方向に向かった。
直線道路から海岸までは50メートルほどだった。
幅100メートルほどの砂浜が左右に広がっていた。
散歩する人、釣りをする人、20人くらいいた。
釣りバカ日誌の浜ちゃんとスーさんが釣りをする光景に似ていたが、砂浜は樹木の幹や枝、木切れが散乱して、きれいな海岸と言う趣ではなかった。
太平洋の海には釣り船や漁船、ずっと遠くに巨大な船が見えた。
モーニングは大食堂でのバイキング。
特別な食べ物はなかったけれど、おいしい朝食だった。
80代の次姉は朝からカレーライスを食べていた。
健啖でよろしい。カミさんは自宅ではいつも納豆とお味噌汁とご飯だけど、旅に出るとパンを好んで食べる。
旅行気分を味わっているようだ。
最高齢の長姉は、大病をしたせいで食は細いが、食欲は旺盛な様子で、多品種少量をとって食べている。
やはり食欲は長寿の秘訣だ。
食事をしながら4人で今日の観光タクシーの行き先を決める。
鏡忍寺と大山千枚田を決めた。
今日は2時間ほどのタクシー観光を予定していたので、食後はゆっくりして10時40分ごろロビー集合とした。
私はもう一度ひとっ風呂あびるため、温泉に入った。
本日の男子浴場は「白糸の美肌風呂」。
先客一人いたがすぐに出たので、後は私一人の贅沢な温泉貸切風呂となった。
ただ私は烏の行水で、温泉をゆっくり楽しむような風情はなく、浴槽を湯比べして10分ほどで退散した。
ロビーの売店で千葉の名産落花生とイワシのピリ辛煮などお土産に買う。
荷物を旅館に預けた。
10時40分過ぎ、きっちりと観光タクシーが迎えに来た。
タクシーに乗り今日の行き先の鏡忍寺と大山千枚田を告げると、運転手さんは少し時間が超過するかもしれないけれどと断りながら、大山寺を勧めた。
そして、大山千枚田を銘柄にした蔵元の亀田酒造で試飲ができると控えめに勧めた。気さくで丁寧で控えめな、好感の持てる運転手さんだった。
まずは鏡忍寺。ここは宿から車で数分。鏡忍寺、その玄関、仁王門と呼んでいいのだろうか、古木の強靭な材質が剥き出て、古刹といっていい風情が漂う立派な山門だった。鏡忍寺は日蓮上人の弟子の鏡忍房の遺徳を偲び名付けられたお寺という。
樹齢千年を超える神木の槙の木が残っている。
鏡忍寺内の欄間は「波の伊八」が手がけていると運転手さんから説明があった。
「波の伊八」は房総で有名な彫刻師で、「波の伊八」5代のお墓も当山に残っているという。
鏡忍寺を後に大山千枚田に向かった。
晴れた良い天気だった。30分くらい走って到着。
運転手によれば千葉県は火山がなく、山が低い。
高い山でも400メートルくらいだという。
大山千枚田は低い山のてっぺん近くまで作られた田んぼだ。東京から一番近い千枚田だという。
よくぞここまで耕したものだと驚嘆した。
千葉国体の際ここを訪れた天皇陛下(当時)の御製碑が建てられている。
とは言え、千枚田はどこの地方にもある。
私の住んでいる岡山県にも千枚田を支えるボランティアのニュースを時々目にしてはいたが、実際に訪ねたのはここが初めてだからおかしなものだ。
しかし、コメ一粒を作ることに汗を流して働いた大勢のご先祖様がいたのだと改めて、歴史を生きた労苦の先人を慮った。
そして、この先だという運転手さんお勧めの大山寺(大山不動尊)に向かった。
大山寺には「波の伊八」と呼ばれた江戸時代の彫刻師の作品が多く残っていると運転手さんは説明をしてくれた。
パンフレットには、「波の伊八」は多くの躍動感に満ちた波を彫っており、その波は葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」に影響を与えたとあった。
大山寺も古色蒼然とした歴史感漂うお寺だった。
ここにも参拝者の姿は我々以外になく、奥山にひっそりとたたずんでいた。
お寺の欄間や飾りには「波の伊八」の作品で埋め尽くされていた。
ただ、古くて、ありのままの存在は、何を表現しているのかわからないままぼんやりと見ていたが、帰宅して写真に収めた大山寺(大山不動尊)の写真を拡大してみると正面に掲げられた龍二体の力動感のある、特に目力に並々ならぬ才能を感じた。
いいところを案内してもらったと今になって運転手さんに感謝した。
そして本日の最後は房総の地酒「壽萬亀(じゅまんがめ)」の蔵元亀田酒造のお店に行き「壽萬亀」の大吟醸三種類を試飲させていただいた。
しかし、私は昨夜飲んだ「大山千枚田」の優しい味わいを選んでお土産とした。
お昼は宿のガイドブックで見つけた蕎麦屋「打墨庵」(うっつみあん)に行く。
山里にマッチしたなかなか雰囲気のある建物が立っていた。
我々の前に3組のお客さんが並んでいた。
順番に名簿に名前を書き込んだ。
20分くらい待って個室に通された。
割合大きな部屋に大テーブル。おいしいお蕎麦屋さんの雰囲気が漂っていた。
私はコースの蕎麦がき、太切り蕎麦、せいろ蕎麦を注文した。
蕎麦がきは時々聞いてはいたが、初めて食べた。
長姉が「東京のおじいちゃんは毎日そばがきを食べていたのよ」と言った。
戦前に亡くなった母方の祖父を知っているのは親類縁者にもう姉しか残っていないことに、父母、おじおばの時代が去り、我々の時代ももう残りわずかになっているのだとあらためて思った。
初めて食べた蕎麦がきは暖かくて、粘りとやさしさが口の中に広がっておいしかった。蕎麦は蕎麦の香の主張が少し物足りないように感じた。
そのほかに天ぷら盛り合わせ、手作り豆腐。
手作り豆腐は絶品の豆腐。なかなか味わえない濃厚な豆腐で本当においしかった。
もちろん、生ビールと日本酒を注文した。
タクシーで旅館に戻って荷物を受け取り、私たち夫婦は姉たちと別れて鴨川シーワルド前から高速バスアクシー号で東京駅に向かった。
高速バスと言っても、このバスは木更津までは路線バスだった。
太川陽介の路線バスの旅というテレビ番組を思い出した。
南房総は内房線、外房線はあるのだけれど真ん中を走るJR動脈路線ができなかったのはなぜなのかと思いめぐらせた。
東京湾アクアライン延長15.1キロメートルを木更津から川崎を15分で結ぶとあった。
ということはほとんどが地道を走る鴨川~東京駅間のバス路線だった。
鴨川シーワールド前14時50分発、東京駅着17時23分、乗車時間2時間33分かかる。
それにしても一日往復20本の長距離バス路線はすごいと思った。(続く)
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