もう10年以上前になる。
第二の職場として福祉関係の法人に勤めていた。
その福祉法人の中に、主に福祉施設で作られた物品を販売して歩く職場があった。
担当課長から、職員採用の打診があった。
応募者はホームページで職員採用の募集を親が知って先日、両親同伴で面接に来たという。
20代の青年で履歴書を見ると、転職が多く一つ職場に長続きしないようだ。両親の話では自閉症があって、対人関係がうまくできないということだった。
ただ、販売の関係は以前携わったことがあり、福祉関係の職場でもあり人間関係もうまくいくのではないか、是非ともやらせてほしいということだった。
福祉法人としては、そういう人の自立支援に役立てばいいのではないかという話になり採用を決めた。
入社した日に職員に紹介をした。
S君はひどく緊張してたどたどしく挨拶していて、長続きするかなあ、少し無理かなあと思ったことを記憶している。
私自身、数年間の勤めだったが、S君とはそんなに多く話す機会はなかった。
顔を合わせると頑張ってやってるな、とか元気とか短い言葉をかける程度だった。
でも、私が在職中は仕事は続いていた。
担当課長からはご両親が大変喜んでおられるという話を聞いた。
先日、あるところで、巡回販売をしていた。
野菜などの農産物も販売しているので、のぞいてみた。
マスク越しではあるが、S君がいることがわかった。
レジに女性職員とともに立っていた。
ここではS君と書いたが、その時はS君の名前を忘れていて、女性職員に「隣の人は何て言ったかな」と聞いた。
「S君です」と聞いて、私は「S君、S君、私のことわかるかな」と尋ねた。
S君は最前から私のことを気づいていたのだろう。「○・○・○さん」と短く区切りながら、小さな声でつぶやいた。
私はS君に今日も「元気でやってる?頑張ってね。」とかってと同じ言葉を繰り返していた。
私は、S君が私の名前を憶えていてくれたことにびっくりした。
そして、私自身はS君の名前を忘れていたことと、そうした態度を恥じて情けなかった。
でも、タケノコと漬物を買ってレジで支払いながら、ある種感動していた。
帰宅してこの話を私の反省の糧としながら妻や息子に伝えた。
S君これからも元気で頑張ってね!
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