戦前から蒸気機関車の機関士をしていた人に聞いた話。
沿線に結核療養所があり、貨物列車の通るのを楽しみにしてくれている人がいたが、一方、病気をはかなんで鉄道自殺を試みる人もあとを絶たなかったそうだ。
戦前のこと。結核といえば不治の病だった。
夜中に機関車を運転していると、行く手に白い病衣を着た患者と思われる人が、線路をフラフラと歩いているのが見える。
夜目にも白く浮かび上がる様子は、ただ事ではない。
そんな時、汽笛を短く鳴らすと、ハッと我に返った様子で、逃げるように線路から出ていく。
自殺しようと思うのは、常ならぬ心理状態、自分が自分でない状態。
汽笛が聞こえると、常の自分を取り戻すというわけだ。
汽笛一声で人命が助かるのだ。
もちろん話はそんなに簡単ではなく、一度は我に返って、自殺を思いとどまっても、結局は、命を絶ってしまう人も多いそうだ。
自殺の原因が除かれるわけではないのだから。
別の人から、こんな話を聞いたこともある。
とても夫婦仲の悪い隣人がいて、聞くに耐えないような言葉で罵り合うことがよくあった。
下手をすると夫婦げんかの末殺人などという事件になりかねないと心配するほど、凄まじい喧嘩だったらしい。
そんな時、その知人は幼かった我が子を背負い、隣家の玄関に面する道路を歩きながら子守唄を歌った。
すると、罵り合いの声がピタリと止まることがあったそうだ。
子守唄の声が、汽笛の役割を果たしたというわけだ。
これも夫婦仲の悪さが解決されるわけではないので、結局この夫婦は離婚に至ったと聞いた。
私がウォーキングで通る道中にも、いつも大きな声で子供を叱る家がある。
今度そんな場面に出くわしたら、口笛でも吹いてみるとするか。
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